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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(マ)27号 決定 1956年10月31日

申立人 宇佐見 すみ子

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

本件申立の要旨は別紙のとおりである。

養子縁組無効確認の訴は養親が普通裁判籍を有する地またはその死亡の時にこれを有した地の地方裁判所の管轄に専属すると規定されているにかかわらず(人訴二四条)、養親がその普通裁判籍所在地を異にするに至つた場合における右訴の管轄に関しては何ら規定されているところがないから、かかる場合には管轄裁判所の不明な場合としてその指定を求めることができるように見えるかも知れない。しかし、元来専属管轄は公益の必要から認められるものであり、それはただ法定の当該専属管轄裁判所以外の裁判所の管轄を排除するという意義に過ぎないのであるから、専属管轄の定めある場合においては合意管轄、応訴管轄等の生ずる余地のないことはもちろんであるけれども、必ずしも常に唯一つの管轄裁判所を定めるものとは限らない。現に民訴七三九条は仮差押命令が仮に差押うべき物の所在地を管轄する地方裁判所または本案の管轄裁判所の管轄に専属することを規定しているのである(同法五六三条参照)。そして二個以上の専属管轄裁判所が存在する場合においては、そのいずれかの管轄裁判所に提起し得べきことはこれまた言を俟たないところである。それ故、本件養子縁組事件のように元来養親の普通裁判籍所在地が同一であることを予定してその管轄を定めている場合にも、偶々その所在地を異にするに至つたためその管轄裁判所と認められる裁判所が二個存するに至つたときは、その各裁判所をもつて管轄裁判所とし、そのいずれに対しても訴を提起することができるものと解するのを相当とする。このことは、稍々趣を異にするが、専属裁判籍を認められている不動産の強制競売の場合につき(民訴五六三条)、不動産が数個の地方裁判所の管轄区域内に散在するときは、各地方裁判所が管轄権を有するものと規定している(民訴六四一条一項後段)わが民訴法の精神に徴しても、これを首肯することができるであろう。或いはこの見解に対し養父または養母のいずれの普通裁判籍所在地を管轄する裁判所に対しても訴を提起することができるとするときは、それが必要的共同訴訟である関係上必ずや一方の養親は自己が普通裁判籍を有しない裁判所において審判を受くべき不利益を強いられる結果を招来するとの異論が出るかも知れない。しかし、かかる結果は直近上級裁判所による管轄の指定がなされた場合においても当然に起りうることであるばかりでなく、裁判所は事情により事件を他の管轄裁判所に移送することによつて当事者の利益の妥当に考慮することができるのであるから、右両者の管轄を認めることによつて一方の当事者を不当に不利に陥れるとする非難は当らない。これを反対に解するときは、却つて管轄の指定のために移送を不可能ならしめ、他方の利益を不当に害する場合も起りうるであろう。

されば本件においても申立人は養父または養母のいずれの普通裁判籍所在地の裁判所に対してもその主張の養子縁組無効確認の訴を提起することができるのであるから、その管轄の指定を求めうべき場合に該当せず、本件申立は理由がないとしてこれを却下すべきである。

よつて、申立費用は申立人の負担とし、裁判官全員の一致で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

申立の理由

申立人は名古屋市西区堀越町乗越二三八番地瀬川渡およびその妻たるの養子となる縁組をして昭和二四年一二月一七日名古屋市西区長にその届出をした旨戸籍に記載されているが、右の縁組は、当事者間に縁組をする意思がないため無効のものである。よつて、申立人は、縁組無効の訴を提起したいが、養父母はその後離婚し、養母中野たるは大津市石山国分町八一九番地に居住するため、右の訴は、名古屋、大津両地方裁判所の専属管轄に属することになつたが、固有の必要的共同訴訟であるから、そのいずれにも提起することができない。

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